9月入学に関する提言

松山公紀東京財団政策研究所所長(ノースウェスタン大学教授)と伊藤隆敏コロンビア大学教授とともに発起人になって、東京財団政策研究所で9月入学に関する提言を出した。この機会に小中高大すべてで9月入学にすれば、コロナショックによる混乱がある現状での教育機会の均等を確保できるし、日本の教育のグローバル化とも整合的であるという議論である。

県知事の間でも9月入学に賛成が多いと日経の記事が伝えている。デメリットとして指摘されているものの多くは移行期をどのように調整するかというものであり、解決不可能なものはない。もっとも9月入学にしたからといって、すぐに日本の教育がグローバル化するわけではない。グローバル化、多様化のための努力は、いままで以上に続けなければならない。ただ、9月入学にすれば、いろいろな面でそうした努力がやりやすくなる。

コロナショックによるアメリカ経済再編

NBERでは続々とコロナ関係のワーキングペーパーが現れているが、最近専用のページができて、しかも誰でもアクセスできるようになった。たぶん毎週Updateされていくのだと予想される。今日加わった論文の一つに非常に興味深いものがあった。Jose Maria Barrero, Nicholas Bloom, and Steven J. Davis “Covid-19 is also a Reallocation Shock” NBER Working Paper 27137 である。

論文は、アトランタ連銀が(Davisの所属する)シカゴのビジネススクールと(Bloomの所属する)スタンフォード大学と共同で行っているSurvey of Business Uncertaintyの最新データを使って、コロナ・ショック下での雇用と売上の見通しが企業間で大きく違っていることを発見する。具体的には、Excess Reallocationという指標を計算している。これは、例えば雇用だったら、雇用を増やす企業に関してその増加分を足しあげて、それを雇用を減らす企業に関してその減少分を足しあげて、そこから全体の雇用の純増あるいは純減の絶対値を引き、その結果を前期の総雇用で割って計算される。これは、企業間での雇用の移動のうち全体の変化を実現するのに最低限必要な量を超えるいわば余分な調整量を計算したものである。たとえば、雇用を増やす企業が全体で40万人雇用を増やし、雇用を減らす企業が全体で130万人の雇用を減らしたとすると、純減は90万人になる。この場合、どの企業も雇用を増やすことなく全体で90万人の雇用が減ればそれで済むのだが、実際には全部で170万人が移動している。すなわち80万人が余分に移動しているのである。この80万人を前期の総雇用で割ったものがExcess Reallocationになる。これは、以前から経済再編の指標としてよく使われている。

論文は、今後12ヶ月に関して企業が予想するExcell Reallocationを、雇用と売上の両方について計算している。コロナ・ショックの前の2020年1月から4月の3ヶ月で雇用の予想Excess Reallocationは1.54%から5.39%に増加した。予想売上についても同様の計算をしているが、これは0.24%(1月)から4.08%(4月)に上昇している。これらは、論文のタイトルのように、コロナ・ショックがReallocationのショックである、ということを示唆する。

この結果が意味するところは、簡単に言えば、コロナショック後の経済はその前とかなり違ったものになり、その調整がもう予想されているということである。したがって、コロナ後の政策が、こうした調整を妨げるようなものになると問題だ、と論文は指摘している。そのような危険性のある政策・制度として、労働者の給与よりも高いレベルに設定された失業保険給付、雇用維持のための補助金、様々な資格制度、創業への障害をあげている。

日本に関しても、コロナ後の調整が妨げられないように、望ましくはそのような調整が起こりやすくなるように、政策を考えていかなければならない。

倒産法制の改革

昨日は時間切れになってしまったが、日経記事に取り上げられた各国の倒産法制改革について簡単にまとめておきたい。

ドイツ

昨日の繰り返しだが、ドイツについては、Cliford-Chanceのレポートが比較的にくわしく解説している。日経の記事に書いてあるように、経営陣が支払不能あるいは債務超過が明らかになってから3週間以内に破綻の申し立てをしなければならないというルールを9月30日まで停止するという措置を取った。しかし、もっと重要な変更は、資金繰りに困った企業に融資を行ったり新しい資金を入れたりするのが容易になったという点であろう。ドイツの倒産法制では、資金繰りに困った企業に新しい資本を提供するとその資本は現存の資本に比べて優先順位が低くなった。いわゆるEquitable Subordinationである。さらに、そのような企業に新しく貸し出す銀行は、その企業が結局倒産して裁判所の監督のもとに再建が行われる時に、貸し手の責任(Lender’s Liability)が問われることになる。これらから、ドイツの倒産法制は、資金繰りに困った企業に新規に貸し出したり、新しい資本を投入する意欲を削ぐものになっていた。今回の改正はこうした点を改良したようである。ドイツでの政策は、破綻申し立てを少し柔軟にして悪い倒産を減らすと同時に、最終的には良い倒産ができる企業に資金を入れやすくして、良い倒産を簡単にする効果がありそうだ。

インド

インドの倒産法制改革については、インドのBloombergの簡単な記事を参考にする。インドでは、債権者が倒産手続の開始を申請できる支払停止額の最低を10万ルピー(約14万円くらい)から1000万ルピーに引き上げた。また、日経の記事が報じるように破産申立の受付を一時停止している。Bloombergによると、7条(債権者による申立)、9条(取引先による申立)、10条(債務者による申立)のすべてを停止したようだが、悪い倒産を防ぐのが目的なら、債務者による申立を停止する理由はないように思える。

スペイン

スペインについては、Bird & Birdがまとめた各国の特に会社法制に関するコロナ対策を参考にする。これには、3月末時点の情報ではあるようだが他の国の例も入っている。これも日経の記事が正しく伝えているように、非常事態宣言中は破綻申請を猶予する。また、非常事態が終了した後でも2か月間は債務者の申し立てによる倒産を債権者の申し立てによるものよりも優先する。この後者の区別は重要だと思う。

シンガポール

シンガポール政府がそのCovid-19対策の債務者への影響について、簡潔にQ&Aの形でまとめているページがある。これによると、債務が履行できない場合でも、債権者による取立は6か月間停止され、倒産の申し立てができる債務金額も1万5000ドルから6万ドルに引き上げるという。

オーストラリア

オーストラリアについては、Bird & Birdのよるまとめがたいへん詳しい。まず、日経記事が伝えるように、債権者が倒産を申し立てることができる最低債務額を5000ドルから20000ドルに引き上げた。また申立に債務者が応える期間も21日以内から6か月に延長された。オーストラリアには債務超過に陥った企業を破綻させないと取締役が個人的に責任を問われるようだが、このルールも6か月間停止される。他にもいくつか資金難に陥っている企業への融資や出資がやりやすくなる対策も講じられている。全般的に、やはり債権者による倒産の申立によって悪い倒産が起こるのを防止しようという措置になっている。債務者が必要だと思う倒産を妨げるような政策はないようだ。

アメリカ

債務者、特に中小企業による再建型の倒産を使いやすくして、良い倒産をむしろ増やすようにしているのが、アメリカの例と考えられる。アメリカにおけるこの面での倒産法制の改革は実はコロナ直前に遡る。去年の8月にSmall Business Reorganization Act(SBRA)という法律が成立して、チャプター11に新たにセクションVが付け加えられた。これは、American Bar Associationウェブサイトの簡単な解説が示すように、チャプター11という再建型の倒産手続の費用が掛かり過ぎるので、中小企業の中には事業の継続をあきらめて清算型のチャプター7を使ってしまう、という問題を解決しようとしたものである。ごく簡単に言えば、負債額が270万ドル程度未満の中小企業については、経営陣を変更しないで事業を続けながら、債務を再調整して再建を目指すというチャプター11を、それほど面倒な手続きを経ることなく、使用できるという制度である。通常のチャプター11なら必ず設けなければならない債権者委員会の設置なども義務づけられていない。このSBRAは、今年2月に施行されたが、コロナ対応のためのCoronavirus Aid, Relief and Economic Security Act (CARES Act)が3月末にできると、その中でSBRAを使うことのできる中小企業の債務額の上限が750万ドルに一気に引き上げられた。CARES ActとSBRAの組み合わせを中小企業がどのように利用可能なのかをFoley & Lardnerが簡潔にまとめている。コロナショックを受けての良い倒産はむしろこれを増やした方が良いという考えからだと思われる。もっとも、良い倒産でも一気に起こってしまうと、倒産裁判所の処理能力を超えてしまうという可能性があるので注意が必要かもしれない。この点については、カリフォルニア大学バークレー校のKenneth Ayotteとペンシルベニア大学のDavid SkeelがWall Street JournalにOpEdを寄稿して、倒産についてもコロナ感染症同様に「カーブを平らにする」工夫が必要だと論じている。