第3次補正予算

2020年12月30日

12月15日に令和2年度第3次補正予算案が、12月21日に令和3年度予算案が、それぞれ閣議決定された。両方とも、来年1月に始まる国会で成立することになるのだろう。今日は、第3次補正予算案の内容を、簡単に整理しておこう。

第3次補正予算による追加歳出は総額19兆1761億円である。当初総額102兆6580億円であった令和2年度の予算は、第1次補正で25兆6914億円、第2次補正で31兆9114億円追加されたが、第3次まで足し合わせると結局179兆4369億円になることになった。このうち国債で賄われる部分は、当初予算の32兆5562億円から112兆5539億円に膨らむことになる。約80兆円の増加である。利子率がゼロとしても、40年で返済するなら年2兆円、80年でも年1兆円の追加返済が必要になる。

今年は新型コロナウィルス感染症の悪影響を緩和するために財政出動を行ったので、仕方のないところはある。しかし、日本の財政はコロナ以前から心配されていたわけだから、経済が回復後にどのように負債を返済していくかの計画は、できるだけ早く立てる必要がある。

第3次補正予算案の概要は次のようなものである。

1.新型コロナウィルス感染症の拡大防止策         43,581億円

①医療提供体制の確保と医療機関等への支援  16,447億円
(病床や宿泊療養施設などへの支援交付金 13,011億円、医療機関等での感染拡大防止等の支援 1,071億円、医療機関等の資金繰り支援 1,037億円など)

②検査体制の充実、ワクチン接種体制などの整備 8,204億円
(ワクチンの接種体制の整備・接種の実施 5,736億円、PCR検査・抗原検査の実施 672億円など)

③知見に基づく感染防止対策の徹底      17,487億円
(感染症対応のための地方創生臨時交付金 15,000億円、オリンピック・パラリンピック延期に伴う対策事業 959億円など)

④感染症に向けた国際協力           1,444億円
(アフリカ、中東、アジア・大洋州地域への支援 792億円など)

2.ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現   116,766億円

①デジタル改革・グリーン社会の実現     28,256億円
(地方団体のデジタル基盤改革支援 1,788億円、マイナンバーカードの普及促進 1,336億円、ポスト5G研究開発支援 1,400億円、カーボンニュートラルに向けた革新的な技術開発支援のための基金 20,000億円、グリーン住宅ポイント制度 1,094億円など)

②経済構造の転換・イノベーション等     23,959億円
(事業再構築補助金 11,485億円、大学ファンド 5,000億円、持続化補助金等 2,300億円、サプライチェーン強靭化支援 2,225億円など)

③地域・社会・雇用における民需主導     64,551億円
(中小・小規模事業者への資金繰り支援 32,049億円、Go To トラベル 10,311億円、Go To イート 515億円、雇用調整助成金特例措置 5,430億円、緊急小口資金等 4,199億円、インバウンド復活に向けた基盤整備 650億円、不妊治療に係る助成措置 370億円、水田の畑地化・汎用化・大区画化等 700億円、新型コロナウィルス感染症セーフティネット強化交付金(生活困窮者支援・自殺対策等) 140億円など)

3.防災・減災、国土強靭化の推進など            31,414億円

①防災・減災、国土強靭化の推進       20,936億円

②自然災害からの復旧・復興の加速       6,337億円

③国民の安全・安心の確保           4,141億円
(自衛隊の安定的な運用態勢の確保 3,017億円など)

第3次補正予算の追加歳出計                 191,761億円

19兆円の大部分が、コロナ感染症対策そしてコロナ・ショックで傷んだ経済の再生のための政策に向けられているのは、いまの情勢からして当然のことだろう。経済対策の中には、デジタル化やカーボンニュートラルにむけた政策など(効果が期待されるかどうかは別にしても)前向きなものもあるが、コロナ前への復帰を願う政策(資金繰り支援、Go To、雇用調整助成金、インバウンド復活に向けた基盤整備など)もならび、歳出額も巨大である。コロナ後の経済はそれ以前とはかなり違ったものになると予想されるから、ニューノーマルへの調整を促進し、その調整のコストを最小限にするような政策が望ましい、ということは以前にも論じたが、この予算の項目では、事業再構築補助金、大学ファンドなどが、どのように実施されるかが重要になるだろう。注視したい。

労働者の生活を守るためには既存の会社を守って雇用を守ろうとするのではなく、職を失ってしまった労働者の生活を助け、再就職を容易にする手助けをする方が効果的だということもどこかで論じたと思うが、そのような政策に関連する項目は、生活困窮者支援・自殺対策等のための新型コロナウィルス感染症セーフティネット強化交付金しか見当たらない。しかもその金額は140億円と、Go To 関係の追加歳出と比べても桁違い(正確には二桁違い)である。各種の報道を見ていると、そこには特に困っている人達を取り上げているというバイアスはあるかも知れないが、困窮者への対策が不足している、あるいは広報が行き届いていなくて支援の存在を知らない人が多いという印象を受ける。セーフティネットの強化にもう少し資源を傾けるべきかと思う。

GoToはどれくらい感染を広めたか?

2020年12月27日

菅首相の会見でもう一つ気になったのは、GoToの影響についての見解である。延べ約7,000万人の利用に対して感染が判明したのが約340人であったことから、感染への影響が少なかったとし、「地方経済の下支えに大きく貢献できた」と結論している。この7,000万人というのが、GoToイートの利用者も含むのか、GoToトラベルの利用者だけなのか明らかではないが、いずれにせよ、複数回利用している人が多いと思われるから、1度以上利用した人の数は7,000万人をはるかに下回るはずである。そして、その人たちがもしGoToを一回も利用しなかったら何人くらいの感染者が出ていたか、という反実仮想(Counterfactual)と比べて初めて340人という数字が大きいのか小さいのか判断することができる。

このような分析を統計的にきちんとやろうとした論文がある。東京大学の宮脇敦士教授らによる論文である。この論文は、8月末から9月にかけて行ったインターネット上のサーベイから得られたデータを使って、GoToトラベルを利用した人と(まだ)利用していない人の間で、過去一ヶ月の間に新型コロナウィルス感染症によく見られる症状(発熱、のどの痛み、咳、頭痛、味覚・臭覚の異常)を経験した割合がどう違うかを調べている。サンプル・バイアスやGoToトラベルへの参加以外の要因でこうした症状の頻度に閉胸を与えそうなものは、できる限り統計的にコントロールしようとしている。その結果、GoToトラベルの参加者の方が、非参加者にくらべて、年齢、性別、住んでいる地域などの他の要因をコントロールしても、コロナを思わせる症状を経験した確率が(統計的に有意に)高かった、という結果が得られている。

症状を聞いているだけで感染したかどうかを聞いているわけではないとか、まだ東京が除外されていてGoToトラベルが本格化する前のデータであるとか、聞かれた本人の記憶に頼っているとか、不足点を挙げることは簡単だが、そうしたデータの制約の下では、可能な限り厳密な統計的推定・検定を行っていると思う。GoToトラベルが感染症を拡大する方向に働いたことを示唆する重要な結果が得られている。菅首相の会見から伺えるよりも、もう少し真剣な検証が政府側でも行われるのが望ましいと考える。

もう一歩進んで考えると、GoToトラベルに参加する人が感染する確率が高くなるかどうかを見るだけでなく、GoToトラベルの参加者が増えることによって、旅行先で参加者以外の人達に感染が拡がっていく可能性も検証することも重要である。また、旅行から帰ってきてから接触した人達に感染を広げてしまう例もあるだろう。参加者の中の感染者が340人だったとしても、こうした参加者から感染した人の人数はどれくらいになったのか?GoToトラベルが健康にもたらした害悪はこうしたものをすべて含めて計算して、それを地方経済への貢献に比べなければならない。

こうしたすべての害悪を足し合わせても、地方経済への貢献に比べれば小さいという結果が出たとしても、まだGoToトラベルが良い政策だったとは必ずしも言えない。それを、他の地方経済振興政策と比べて、費用対効果が優れている、少なくとも同等である、ということが言えなければならないからである。たとえば、GoToで使われた補助金を直接ホテルなどに(宿泊客の実績に応じて?)配分していたらどうなっていたであろうか?

給付金と罰則

2020年12月26日

2か月間、このブログを休んでしまったが、その間にコロナの第3波が拡がって、止まる様子がない。「勝負の三週間」も、その中身が我々国民に(少なくもぼくに)伝わる前に過ぎてしまった。昨日(2020年12月25日)、菅総理が新型コロナウィルス感染症について記者会見するのを聞いた。その中で気になったことをいくつか書きとめておきたい。

まず、大人数での飲食時に感染が広がっているので、飲食店の営業時間の短縮を求めているが、思うような協力が得られないという認識からか、「飲食店の時間短縮については、給付金と罰則をセットで、より実効的な措置が採れるように特措法の改正を検討」すると発言した。飲食店の時間短縮がどれほど感染を食い止めるのに役に立つかという論点もあるが、それはおいておき、今日考えてみたいのは、「給付金と罰則をセットで」ということである。

罰則というのが罰金であれば、あるいは罰則による被る不利益を円換算できるなら、罰則というのは負の給付金に過ぎない。要するに、時間短縮に協力してくれる店にはお金をあげて、協力してくれない店からはお金を取り上げる。いまの給付金のレベルでは、それをもらうよりも要請に従わないで営業した方が良いと考えている飲食店も、罰金を払わなければならないのなら、時間短縮した方が良いということで、時短要請が「より実効的」になる、ということだろう。

こう考えると、特別措置法を改正して罰則を導入しなくても、その罰則と同等の金額を給付金に上乗せすれば、同じような効果が期待できることがわかる。たとえば、いま120万円の給付金では十分な数の店が時間短縮に協力してくれないが、協力してくれない店に100万円の罰金を科せば、十分な協力が得られる、ということであれば、罰金なしでも、給付金の額を220万円にすれば、同じ効果が得られるはずである。

もっと一般的に、飲食店が時短要請に応じるかどうかの判断を合理的に行っていると仮定すると(これは妥当な仮定だと思うが)、飲食店は時短要請に協力する時の(純)便益が協力しない時の便益を上回れば協力するし、そうでなければ協力しない。

時短要請に協力する時の便益というのは、

給付金 + 要請に応えることによって感染症の蔓延防止を助けることによる便益

となる。二番目の項には、時短によって店の経営者や従業員の感染リスクが減ることの便益だけでなく、客の感染リスクやその家族の感染リスクが減ることも入っているかも知れない。この意味でただ単に個人的な便益だけを考えているわけではないだろうが、自分の店が時短することによって感染リスクが減ることによって最終的には医療崩壊の確率も低下させて社会に便益をもたらす、というところまで考える人は少ないであろう。このブログの他の原稿でも指摘したように、社会全体の便益を考えるところまではいたらないので、外部性があり、社会的に望ましい結果を得るためには給付金などが必要になるわけである。

一方、時短要請に協力しない時の便益は、

時短しないことによって得られる利益 - 罰則の不利益

である。したがって、時短要請に協力する時の便益が協力しない時の便益を上回る状態というのは、

給付金 + 要請に応えることによって感染症の蔓延防止を助けることによる便益 > 時短しないことによって得られる利益 - 罰則の不利益

という不等式が成り立つときである。この式を少し並び替えれば、

給付金 + 罰則の不利益 > 時短しないことによって得られる利益 - 要請に応えることによって感染症の蔓延防止を助けることによる便益

となる。要するに給付金と罰則の不利益の合計が重要なだけで、どれくらいが給付金でどれくらいが罰金かは関係ないのである。

違ってくるのは、給付金を支払う国や東京都の財政負担である。罰則を設ければお金がかからないので、そうしたい、というのかも知れない。しかし、その経費の削減はそれほど大きいものではない。たとえば、東京都には現在約8万弱の飲食店があると考えられる(「平成28年経済センサス」第5表の東京都の飲食店数は79,601)。全部に250万円配ったとしても2,000億円である。大きい金額ではあるが、国が第一次補正予算でGo To キャンペーンに割り当てた金額(1兆6,794億円)の8分の1以下である。最近の第三次補正予算でも1兆円以上の予算がGo Toに充てられている。Go Toが感染症の蔓延に与えた影響は、たとえ菅総理が言うようにマイナスではなかったとしても(それも怪しいが)、プラスではあり得ない。給付金の方が賢いお金の使い方だと思われる。

罰則を導入する時のさらに大きな問題は、罰則の対象になってしまう店あるいは罰則があるので仕方なく時短要請に協力する店というのは、本当に困っている店が多いと予想されることである。これは上の不等式を見て、罰則がなければ右辺の方が大きくなるが(要請に協力しない)罰則があれば左辺の方が大きくなる店というのはどういう店かを考えるとわかる。それは、右辺がもともと大きい店である。それは要請に応えることによる便益を少なく感じている店でもあるが、時短しないことによって得られる利益すなわち時短することによって失ってしまうものがたいへん大きい店でもある。こういう店に罰則を科すというのは良い政策なのだろうか?