地方から東京圏への人口流出

昨日の議論に関連して、地方から東京圏への人口流出が地方を衰退させるのは当たり前だと考える人が多いようだが、この状況は発展途上国から先進国への頭脳流出は当然発展途上国の経済に悪い影響を与えると考えられていた一昔前の経済学に似ている。現在では、それが決して当たり前ではなく、高度人材の海外への流出が自国経済の発展を助ける場合もあることが理解されるようになってきている。日本の地方創生を考える時にもこのような視点が必要なのではないか?

いわゆる頭脳流出(Brain Drain)の経済学については、数年前のJournal of Economic Literatureにサーベイ論文がある。Frederic Docquier と Hillel Rapoport による2012年の “Globalization, Brain Drain, and Development” という論文は、先進国に頭脳流出が起こることによる人的資本の減少が自国の経済に悪影響を与えるという以前から指摘されていた影響に加えて、四つの経路で、人材の海外流出が自国の経済発展を助ける可能性を挙げている。

第一は、人的資本がより高く評価される海外に行ける可能性があると、国内で人的資本に投資するインセンティブが高まり、結果として国内に留まる人的資本の質も高まるという議論である。これは、たとえて言えば、イチロー選手や大谷選手のように大リーグで活躍できることを目指す少年が増える結果、日本のプロ野球のレベルも向上する、という経路である。

第二は、海外で活躍する人材が母国にその稼ぎを送金することによって、それが母国での人的投資や創業資金に使われて、母国経済が発展するという経路である。南米からアメリカに来る外国人労働者や移民が母国に送る資金の量はここ20年くらいで大きく増えてきた。

第三は、海外で活躍していた人材が母国に帰ることによって、海外で得た経験や知識で母国の経済発展に貢献するという、いわゆる頭脳還流である。日本国内で言えば、首都圏の経営者人材がUターンで地方企業の発展を助けるというような経路が考えられる。

最後に、同じ国から海外に流出した人材が、お互いの間で密接なネットワークを作り、母国とも関係を保つことによって、先進国の知識などを母国でも利用しやすいようにするという経路である。いわゆるディアスポラの議論で、例えばシリコンバレーで活躍するインド人エンジニアなどが典型的な例として紹介される。

このように考えると、地方から東京圏への人口流出も、それが十分に還流することによって地方経済を助けるという可能性も十分に考えられる。昨日のブログで見たように、高度成長期の日本は人口の流出も流入も両方とも高い状態で、このような人材の還流が今よりも活発だったのかも知れない。また、都会であるいは世界での活躍を願って努力する地方の若者もいまだに多数いるということも忘れてはならない。彼等と彼女達は東京に出て行ってもいずれ何らかの形で地方の発展に貢献する可能性が高いだろう。最近の問題は地方から人材が流出することではなく、逆にその流れが鈍くなってきて、人材が滞留してしまっていることなのではないか?

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