ビジネス環境ランキング

【2020年8月23日】

世界銀行のビジネス環境ランキングで日本の順位を上げることは、アベノミクスの最初からのKPIの一つであった。2013年の最初の成長戦略では、2020年までにランキングで先進国中3位に入ることが目標とされた。当時、日本は全体で24位、先進国だけでみても15位だったので、3位というのはかなり高い目標を掲げたことになる。しかし、ランキングは一向に上がらなかった。2019年に成長戦略を見直した時には、日本のランキングは全体で39位に、先進国中に限っても25位に、むしろ下がってしまった。

当然、2020年までに先進国中3位に入ることは不可能と思われたようだ。2019年の成長戦略では、2030年までにG20内で1位になるいう目標に変わった。G20内の順位なら、EUは国でないとして除外すると、最悪でも19位だから、少し良く見えると考えられたのだろうか。2020年のランキングでは、全体で29位だが、G20内では8位になる。それでも、G20内で1位になるのは、先進国中3位になるのと同じくらい難しい。

次の表は、2013年から2020年までの各年のビジネス環境ランキングでの日本の順位である。

日本の順位
201324位
201427位
201529位
201634位
201734位
201834位
201939位
202029位

成長戦略が目指したはずの方向とはまったく逆に、日本のビジネス環境ランキングは去年までは低下を続けていた。今年のランキングではやっと29位に戻ったが、2013年の24位よりも下である。

これはどうしてか?他の国がビジネス環境をより良くするための改革を行った結果ということもあるかもしれないが、それと同時に、日本がそのような改革を行わなかった結果である。世界銀行のビジネス環境ランキングは明白な基準に基づいているので、ランキングを上げようと思えば、どのような改革を行えば良いのかはすぐわかる。実際、ぼくも当時パリ経済大学院の学生だったJamal Haidarと一緒に日本はどのような改革をやれば、ビジネス環境ランキングで先進国中3位になれるのかを示して、NBERのWorking Paperにした。ちょうど5年前である。当時は政府関係者にもこの論文の話をする機会があったが、だれも興味を持たなかったようである。結局、ビジネス環境ランキングを上げると言っておきながら、実際にはそれに必要な政策を考えてもいなかったということであろう。

したがって、ビジネス環境ランキングの目標が達成されなかったのはまったく不思議ではない。世界銀行は、ビジネス環境ランキングとともに、各国でビジネス環境を高めるために行われた改革も報告している。2014年から2020年までの各レポートで、日本で行われた改革を拾い上げると、2017年と2018年の2年について、税制改革があげられているだけである。これを、2013年にランキング8位で2020年には5位に上昇した韓国と比べると、韓国はほぼ毎年改革が行われており、年によっては2つ以上の分野で改革が報告されている。順位が下だった日本は、順位を上げるためには、韓国以上の改革が必要だというのは、明らかだったはずなのだが。

こうして見ると、成長戦略で語られてきたビジネス環境ランキングを上げるという目標は、まったく実態を伴わなかったことがわかる。2030年にG20内で1位になるというKPIも当然達成されないだろうし、そのための努力もなされないだろう。どうして、KPIとして掲げられているのか、理解できない。

ビジネス環境ランキング」に2件のコメントがあります

  1. このような事実があったとは知りませんでした。EBPMの条件が整っていたにも関わらずPlan Do Check Actionが無かった。「やってる感」だけで、実はやってなかった。言いっぱなしになってないか、政策実現度をウォッチする必要がありますね。

    いいね

コメントは受け付けていません。

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。