2020年12月26日
2か月間、このブログを休んでしまったが、その間にコロナの第3波が拡がって、止まる様子がない。「勝負の三週間」も、その中身が我々国民に(少なくもぼくに)伝わる前に過ぎてしまった。昨日(2020年12月25日)、菅総理が新型コロナウィルス感染症について記者会見するのを聞いた。その中で気になったことをいくつか書きとめておきたい。
まず、大人数での飲食時に感染が広がっているので、飲食店の営業時間の短縮を求めているが、思うような協力が得られないという認識からか、「飲食店の時間短縮については、給付金と罰則をセットで、より実効的な措置が採れるように特措法の改正を検討」すると発言した。飲食店の時間短縮がどれほど感染を食い止めるのに役に立つかという論点もあるが、それはおいておき、今日考えてみたいのは、「給付金と罰則をセットで」ということである。
罰則というのが罰金であれば、あるいは罰則による被る不利益を円換算できるなら、罰則というのは負の給付金に過ぎない。要するに、時間短縮に協力してくれる店にはお金をあげて、協力してくれない店からはお金を取り上げる。いまの給付金のレベルでは、それをもらうよりも要請に従わないで営業した方が良いと考えている飲食店も、罰金を払わなければならないのなら、時間短縮した方が良いということで、時短要請が「より実効的」になる、ということだろう。
こう考えると、特別措置法を改正して罰則を導入しなくても、その罰則と同等の金額を給付金に上乗せすれば、同じような効果が期待できることがわかる。たとえば、いま120万円の給付金では十分な数の店が時間短縮に協力してくれないが、協力してくれない店に100万円の罰金を科せば、十分な協力が得られる、ということであれば、罰金なしでも、給付金の額を220万円にすれば、同じ効果が得られるはずである。
もっと一般的に、飲食店が時短要請に応じるかどうかの判断を合理的に行っていると仮定すると(これは妥当な仮定だと思うが)、飲食店は時短要請に協力する時の(純)便益が協力しない時の便益を上回れば協力するし、そうでなければ協力しない。
時短要請に協力する時の便益というのは、
給付金 + 要請に応えることによって感染症の蔓延防止を助けることによる便益
となる。二番目の項には、時短によって店の経営者や従業員の感染リスクが減ることの便益だけでなく、客の感染リスクやその家族の感染リスクが減ることも入っているかも知れない。この意味でただ単に個人的な便益だけを考えているわけではないだろうが、自分の店が時短することによって感染リスクが減ることによって最終的には医療崩壊の確率も低下させて社会に便益をもたらす、というところまで考える人は少ないであろう。このブログの他の原稿でも指摘したように、社会全体の便益を考えるところまではいたらないので、外部性があり、社会的に望ましい結果を得るためには給付金などが必要になるわけである。
一方、時短要請に協力しない時の便益は、
時短しないことによって得られる利益 - 罰則の不利益
である。したがって、時短要請に協力する時の便益が協力しない時の便益を上回る状態というのは、
給付金 + 要請に応えることによって感染症の蔓延防止を助けることによる便益 > 時短しないことによって得られる利益 - 罰則の不利益
という不等式が成り立つときである。この式を少し並び替えれば、
給付金 + 罰則の不利益 > 時短しないことによって得られる利益 - 要請に応えることによって感染症の蔓延防止を助けることによる便益
となる。要するに給付金と罰則の不利益の合計が重要なだけで、どれくらいが給付金でどれくらいが罰金かは関係ないのである。
違ってくるのは、給付金を支払う国や東京都の財政負担である。罰則を設ければお金がかからないので、そうしたい、というのかも知れない。しかし、その経費の削減はそれほど大きいものではない。たとえば、東京都には現在約8万弱の飲食店があると考えられる(「平成28年経済センサス」第5表の東京都の飲食店数は79,601)。全部に250万円配ったとしても2,000億円である。大きい金額ではあるが、国が第一次補正予算でGo To キャンペーンに割り当てた金額(1兆6,794億円)の8分の1以下である。最近の第三次補正予算でも1兆円以上の予算がGo Toに充てられている。Go Toが感染症の蔓延に与えた影響は、たとえ菅総理が言うようにマイナスではなかったとしても(それも怪しいが)、プラスではあり得ない。給付金の方が賢いお金の使い方だと思われる。
罰則を導入する時のさらに大きな問題は、罰則の対象になってしまう店あるいは罰則があるので仕方なく時短要請に協力する店というのは、本当に困っている店が多いと予想されることである。これは上の不等式を見て、罰則がなければ右辺の方が大きくなるが(要請に協力しない)罰則があれば左辺の方が大きくなる店というのはどういう店かを考えるとわかる。それは、右辺がもともと大きい店である。それは要請に応えることによる便益を少なく感じている店でもあるが、時短しないことによって得られる利益すなわち時短することによって失ってしまうものがたいへん大きい店でもある。こういう店に罰則を科すというのは良い政策なのだろうか?