日本の学校を4月入学から9月入学に変えるという議論が盛り上がっている。これは、10年ほど前に東大でも議論された話だ。その時は、学長を始めとする首脳部は乗り気だったが、結局大学内の反対で実現しなかったと聞く。ぼくが東大に移籍するずっと前になるので詳しい話は知らないが、当時作られた入学時期の在り方についての懇談会の報告書が東大のウェブサイトにあった。
その15ページに9月入学のメリット・デメリットを簡潔にまとめた次のような表がある。

これは、東大だけが9月入学にして、他の大学や小中高のスケジュールは変わらないという前提で議論されているが、デメリットとして挙げられていることのほとんど全部が、東大だけスケジュールを変えることの問題になっている。たとえば、「日本の高校生の優秀な層が他大学(海外を含む)へ流出するおそれがある」、「他大学と長期休業期間がずれるため、部活動等で交流等が実施しづらくなる」、「ギャップ期間中の家計負担が発生する」といったものである。
こうしたデメリットは、すべての大学も小学校・中学校・高等学校も同じように9月入学にすれば解消される。海外大学への流出は10年前とは違って現状でも起こっているが、それへの対応はグローバル・スタンダードとはちがった制度を守ることではなく、海外からも優秀な学生を獲得できるようにすることであるべきだ。
雇用のカレンダー、国家試験のスケジュールに合わなくなるというデメリットも指摘されているが、これらも全部の大学と学校が9月入試になればおのずと変わるだろう。そうしてメリットだけが残るようになるなら、この機会に一気に9月入試に移行すべきだろう。実現すれば、小池都知事が言ったように「コロナが社会改革の機会」になる。
他に議論されている9月入学の問題としては、移行期の問題がある。たとえば、最初の年に前年の4月からその年の8月までに6歳になった児童をすべて小学1年生にしてしまうと、人数が多くなりすぎてしまうということである。しかし、これは少しずつ変えていくことで対応可能である。たとえば、最初の年はその年の5月1日までに6歳になった子供を小学1年生にとすればよい。次の年は6月1日まで、その次の年は7月1日までとやっていけば5年で調整が終わる。
さらに言えば、ここで止まる必要はない。その年の10月1日までに6歳になる子供を1年生にしてもなにも問題はない。そうすれば、9月入学にすると半分以上の子供にとって学校を始めるのが以前より5か月遅くなるという批判も当てはまらなくなる。もっともどうしてこれが問題になるのかわからないが。もし次の年の4月1日までに6歳になる子供を1年生にするなら、移行期間が終わった後には、すべての子供が半年早く学校を始めることになる。