緊急事態宣言

2021年1月9日

新型コロナウィルス感染症緊急事態宣言が、1月7日、一都三県について再び発動された。政府のウェブサイトにしたがって、国民に求める主なポイントを整理すると次のようになる。

  • 昨年の4月のように、社会経済活動の全般的な自粛を求めるのではなく、感染リスクの高い場面に限った制限を加える。
  • 中心になるのは、飲食を伴う活動の制限。具体的には以下のような取り組み。
  1. 不要不急の外出や移動の自粛。特に20時以降。
  2. イベントには、人数の上限、収容率の上限、飲食の禁止など要件を設ける。
  3. 飲食店やカラオケボックスの営業時間の短縮(20時まで、酒類の提供は19時まで)。「協力金」引上げ(月30日換算120万円→180万円)。遊技場や大規模店舗についても同様の働きかけ(営業は20時まで、酒類の提供は19時まで。)
  4. 出勤者数の7割削減を目指したテレワーク、ローテンション勤務、時差通勤などの対策。20時以降の勤務抑制。
  5. 学校等については休校は要請しない。保育所や放課後児童クラブなどについても、開所を要請。ただし、部活動、懇親会などは制限。

また、新型コロナウィルス感染症対策の基本的対処方針も昨年5月25日以来改訂されて、上記の対策などが盛り込まれた。

主な対策を見ると、前回の緊急事態制限の時の経験から学んだことを活かそうという姿勢がみられて、これは評価できる。感染リスクの高い場面に限って制限を加えるという方向性は正しいと思う。ただし、感染者の数、重症者の数、医療体制の逼迫の状態などを考えると、現状は去年の4月に比べてより深刻だと言えるだろう。その意味では、昨年の4月に必要だった対策よりも強い対策が必要となる。昨年のような全般的な制限は加えないが、感染リスクが高いとわかった場面については、事態はより深刻なので去年よりも真剣に取り組む必要がある、というメッセージをより徹底することが重要ではないかと思う。事態の深刻さが理解されないと、出勤者数の7割削減とか不要不急の外出の自粛とかは、達成されない可能性が高い。

飲食店への「協力金」の引き上げは、より多くの飲食店が時短営業あるいは休業を選ぶために必要な対策だと思う。12月26日のブログで論じたように、要請に従わないところの多くは、時短営業によって失うものが多いところだろうから、罰則というよりも協力金の引き上げで対応する方が良いと思われる。そこでも協力金を増額しても、コロナ対策の他の出費に比べてそれほど大きくないことを指摘したが、昨日の日経ビジネスの記事には、興味深い計算が載っている。大和証券のアナリストの試算によると、1都3県の飲食店事業者の2ヶ月分の売上高を全額支給したとしても0.9兆円にしかならないという。Go To トラベルの予算は、第3次補正予算に盛り込まれたものだけでも1兆円あるのだから、それに比べれば飲食店の時短営業のための協力金を引き上げるのは、簡単に思われる。

保育園などを含めて、学校などの休校を要請しなかったのは、評価できると思う。1月4日のブログで、アメリカ経済学会のセッションのことを書いたが、そこでCaroline Hoxbyが言っていたように、休校の学生に与える長期的悪影響はそれほど大きくないかも知れないが、子供を持つ親(特に母親)に大きなコストを強いることになるからである。

「基本的対処方針」は、今回の対策まで含めて、いろいろとUpdateされているが、接触確認アプリについて、「スマートフォンを活用した接触確認アプリ(COCOA)について、検査の受診等保健所のサポートを早く受けられることやプライバシーに最大限配慮した仕組みであることを周知し、民間企業・団体等の幅広い協力を得て引き続き普及を促進する」とある。COCOAについては、野口悠紀雄氏が去年の8月に書いたように、数々の問題が指摘されていて、それらが改良された気配はない。ぼくの近親者も、昨年の秋にCOCOAに感染者との接触確認の知らせが届いたので、保健所に連絡しようとしたが、その日は土曜日で連絡が取れず、月曜日に電話すると、待たされたあげくに、症状がなければ検査は不要で行動制限もないと言われた。無症状の人が感染させることはない、という仮定なのだろう。(本当だろうか?)症状がある人は接触確認の連絡がなくても検査をしているだろうから、アプリは全く役に立っていないと言わざるを得ない。まさに野口氏が指摘するように「不安を煽るだけのアプリ」である。それが普及していないのは悪くないとさえ言えるかも知れない。このアプリは失敗だったことをもう認めるべきだろう。